それは運命




波に揺られながら、船は目的地へとゆるゆる進んでいる。
いかにも活発そうな白い羽根帽子を被った少女、は太陽が反射して
まぶしい海原を見て、感嘆のため息をつく。
まるでトランプのカードに紛れてもわからないような白と赤の服に、短いチェックのスカート。
髪は黒。瞳はダークレッドで、伸ばしてある髪はカールがかかっている。


彼女の服装には色々バリエーションがあるが、今日はこれからモンスターと戦うかもしれない
というのに、なぜか戦いにそぐわない服装をしていた。
そんな娘の事を、父は"変わった子"といっている。


は背伸びをして海原を眺めていた。
危なっかしくもゆらゆらと船の揺れに合わせて左右に揺れている。


!みてみて!!今魚が跳ねたわよ!!」
「ホントだ・・・って、は元気だね」


比較的おとなしい性格のの兄は、全身紫の、こちらも変わった服装をしていた。
は双子で、仲も良い。因みに2卵生だ。
も手すりに手を置き、海原を眺めた。
―――眩しいなぁ。
それが双子の兄の、海原を見た率直の感想だった。




「・・・・あ、街だわ。、街よ。街が見えるわ!」
「いや。あれは船着場だと思う」


妹のボケに、つっこみをかましつつも、自分もその船着場を見る。
小屋にも似た家が一件聳えるだけで、他にこれといって目を引くものはない。
遠くの方にポツリ、町・・・あるいは村がみえるが。


「そういえば・・・この船の持ち主のお嬢さんがこの船にいるらしいわよ?」
「へえ・・・」
「あら、興味なさ気じゃない??会ってみたいとか思わないわけ??」
「少し興味は沸いたけど、別にあってみたいとは・・・」
「そういう考えがいけないのよ!ほら、いくわよ!」


どういう考えがいけないのか・・・は幼いくせに大人びた考えの持ち主だった。
に手を引かれて、帆の近くへと向かう。
そこにいそうな気がする。と、は断言していた。


「失礼しまぁす!」


声を潜めるというという芸当を知らないのか、は丁寧にも元気よく挨拶をして
部屋へと入っていく。
その部屋はいかにもいそうな雰囲気が漂っていたが、部屋の主はどうやらいないようだった。


、どうやらいないようだよ。戻ろうよ、父さんに怒られるよ?」
「大丈夫よ、別に父さんに怒られても怖くないし」


問題発言をさらりとかましただが。その発言にもそうだね、といって賛同していた。
短いスカートをはためかせて、が部屋中を走り回る。
の瞳は、新しい玩具を買ってもらった子供のよう。


「こんなとこに住んでみたいわね。毎日宿泊まりなんて案外イヤなもんよ。
 枕が違うと、眠れないあたしがかわいそうじゃない」


ぶぅぶぅと文句を垂れる。だが勿論、は枕が違うと眠れないなんて
繊細な心は持ち合わせていない。
は密かに苦笑いを浮かべると、船は動くことをやめた。


「あら・・・どうやらついたのかしら?まさか父さんがあたしたちをおいてくなんて
 酷いことしないと思うし、もう少しここにいましょ?」


有無を言わせないその疑問系の言葉に、は黙って頷いた。
ただただ部屋を駆け回ることのどこが面白いのだろうか。
は双子の妹に疑問を抱かずにいられなかった。


「あら?」


の体は自分の方を向いている、が、視線は自分には向いていない。
不審に思い自分の背後を確認すると、そこには空色の髪を肩らへんでそろえた
明らかに良家の子だと思われる子がいた。
躊躇いがちに視線を泳がせる少女は、どぎまぎしている。
多分、この部屋の主だと思うのだがなんでどぎまぎしてるんだろ・・・
なんて思ったが、他人である自分達の存在に気づき妙に納得した気分になった。


「あなた、此処の船の持ち主の子供?」
「え、えぇ。そうですわ・・・」
「あら、会えて嬉しいわ!あたし、っていうの。こっちの価値観ずれてそうなのは
 あたしの兄の。あたしとが双子って言うのは変えられようのない事実なのよ・・・」


価値観ずれてるのはそっちの方だ、といってやりたかったが
いわれてみればずれてる気もしたんでやめた。
は人懐こい笑みを少女に向け、打ち溶け合おうと頑張っているようだった。
我が妹ながら、尊敬するな・・・なんて思ったりもした。


「あっ、あのわたくしはフローラと申しますわ。えと、あなたがたは何故コチラに・・・?」


聞くのは当然だよね。なんて思ったりもした。
見ず知らずの双子が自分の部屋にいたら、疑問に思わないはずがない。
しかしは、フローラの言葉の取り方を間違えたのか、何故か今までの経緯を話していた。


「・・・で、あたしたち今からサンタローズまでいくわけなのよ」
「そうなんですか・・・いいですわね、わたくしも旅にでてみたいですわ」


最初の頃よりも心を開いたフローラが躊躇いがちの微笑みを浮かべ、に言う。
で、夢を壊すような発言を平気でしていた。


「旅なんて疲れるものよ、時々野宿になる時もあるのよ?真冬の時に野宿とかは
 流石に堪えるわ・・」
「まあ、それは困りますね・・・」


と、フローラが言った瞬間奥のほうで扉が開く音がした。
が羽根帽子の羽根を威勢良く揺らして音源のほうをむいた。


「こんなところにいたのか、
「あ、ごめんなさい。フローラと色々話していたの」
「ほぅ、あの人見知りが激しいフローラが・・・」


フローラの父・・・ルドマンが驚いたようにたちを見る。
が外向けの笑顔をルドマンにみせ、こんにちわといった。
フローラは小さくお父様・・・と呟くと、視線をパパスへと移す。


「こんにちわ・・・フローラと申しますわ」
「おぉ・・・これはこれは。たちの父のパパスです」


顔に似つかぬ敬語でフローラに挨拶をするパパスに、思わずは噴き出す。
そんなに焦ったように小突くのも、
悪気はないんだよ父さん。と弁解するのも、やはり
嫌な役回りだな・・・と偶然にも双子は同時に思った。






「それでは、失礼します。」


パパスが会釈をし、続いても会釈をする。
は会釈などさらさらする気などなかったらしいが、パパスが強制的に
に会釈をさせていた。
不服そうに顔をゆがめるところを、は横目で目撃したという。


「バイバイ、フローラ」


綺麗な笑顔で手を振る
強引で、元気すぎのだが、顔だけはいいので笑顔も華やかだ。
パパスは、母親似だからだ。といっていた。
チラリとパパスの顔を見ては妙に納得した気分になった。
フローラも小さく手を振り、さようなら。といってた。