それは目覚め




「まったく、大人ってなんで立ち話が好きなのかしら?」


パパスが船着場の管理者らしきものと立ち話をしているのを見て、不服そうにがいう。
は特に何も思わなかったが、此処から見える広い草原に目を奪われた。


―此処から、僕の知らない世界が広がっている


そう考えると、ドキドキした。
今迄色々なところを旅しているが、新しい大地に足を踏み入れると
毎回ドキドキして、早く行ってみたいという気持ちでいっぱいになる。
も同じような気持ちなのだろう。此処から見える小さな村を見て、顔を綻ばせている。


「ねえ、ちょっと外へ出てみない?」


珍しいからの誘いには楽しげに顔を歪ませ、皮肉をいう。


「へえ、からそんな誘いを受けるなんて思わなかったわ。
 まあ、あたしもそんなこと思ってたとこよ」






+++







「うんうん・・・広いわねぇ・・・」


うっとりとした瞳で見つめるのは他でもなく、緑溢れる草原。
短いスカートを存分に揺らしながら、体ごと動かして景色を堪能していた。


「・・・!」


先ほどとは様子が違うの声色に、が反応する。
の目の前には、モンスターが3匹いる。


――確か、父さんが"スライム"っていってた気がする・・・そんなに強くないはずだ


自分達でも倒せると思い、の元へ駆け寄る。



まず、が殴りをいれる。
は元から己の体が武器の、武闘家タイプなので中々攻撃力が高い。
だが、そのの一撃でもスライムは倒れない。
次いでもひのきぼうで殴りにかかる。
そして、やっとスライムを一体倒すことが出来た。


ほっと一息してる間にもスライム2体が攻撃を始める。


「いたっ!」


まず1体目がに攻撃をした。
は慣れない痛みに声をあげ、尻餅をつく。
そこへすかさずもう1体のスライムが突撃する。


!」
「もー!やってらんないわ!!ホイミ!!」


妹であるを守ろうと、咄嗟に走り出したのだが、が自棄を起こすのが見えた。
の口から自然と回復呪文の単語がでてくる。
次にの人差し指から淡い光が放たれたと思うと、のダメージが回復していた。


「・・・あれ?」


自分自身の行為に、戸惑いの声色で声を漏らす。
が声を漏らしたときには既に、がスライムを攻撃してターゲットを逸らしていた。


そこへ、強靭の刃がスライムを襲う。
スライムは一瞬にして散り、残った一匹も直ぐに斬られた。
次は自分か・・・?微かに過ぎる不安を振り切り、二人は振り返る。
そこには、想像してたような凶悪な何かはいなく、彼らの父パパスがいた。


「大丈夫か?」
「「父さん!」」


途端生気が漲ったような生き生きとした顔に戻った二人に、パパスは苦笑する。
はほっとしたのか、いつものような威勢のいいに戻り、遅いわよ。なんて呟いた。
は改めて父の偉大さと、自分の無力さを感じた。
そこへパパスはに地図を渡した。何かの役に立つはずだ。といって。


「ときに・・・」


自分の拳を見つめ、はめてあるグローブの調整を行っている
パパスは、遠くにある村を見つめながら話しかける。
は目線はそのままで、なに?と返答をする。


には武術の才能もあるようだが、治癒魔法の才能もあるかもしれんな」
「え、ホント?」


目線をグローブから外し、遠くを見つめるパパスを見る。
パパスもの方を向き、野性的な微笑を向ける。


「さっきのホイミ、今迄習得していなかったんだろう?」
「まぁ・・・ねぇ」


イマイチ実感できないのか、は自分の手を凝視していた。


は攻撃も回復もできるんだから、将来有望だと思う」


に微笑みを向けていう。
するとみるみるうちに自信がわいてきたのか、瞳は勝気に輝き
任せなさいよ!と叫んでいた。






+++






それからの道中、何か突然変異をしたように目覚しい成長をした
攻撃力もぐんぐん上がっていき、おまけにすばやさまで上がっていた。
これにはパパスも驚きを隠せないようで、モンスターを倒すのを譲ったりしていた。


そして目的の村へとついた。


「パパスさんが帰ってきたぞー!」
「おかえりなさい、パパスさん!」


村の人々の歓声に、おされ気味のの前を、パパスは勇ましく
歩いて、歓声に応えるように手を振っていた。
には、パパスのが英雄のようにみえた。


「パパス様!!お帰りなさいませ!!」


小さい、丸々としたおじさんがパパスを見るなり感涙を流して叫ぶように言った。
―――サンチョというらしい。が怪訝そうにサンチョを見ていると
サンチョはの視線に気づいたらしく、先ほどより感涙の量を多くして泣きついてきた。


お嬢ちゃん!!ご無事で!!前サンチョが見たときは本当に、本当に小さくて
 戦闘には不釣合いでしたのに・・・!こんなにも勇ましくなりまして!!サンチョは
 感激でございます!!」
「あら、それはどうも。勇ましいって言うのは、レディーに向かってどうかと思うけど?
 これから、お嬢ちゃんからお嬢様に変えてよね」


クスクスと笑いながら冗談交じりにサンチョにいったのだが
サンチョはBGMがつきそうなくらいショックな顔をして、申し訳御座いません!!!
と泣き崩れいていた。根っからの従者のようだ。
いい遊び道具が出来た・・・と怪しく笑うの姿を、は見た。