それは春への第一歩








「うりゃ!」


油断は禁物。は全力でかかった。まず、の拳がザイルの顔にクリティカルヒット。
ザイルは一瞬痛そうに顔を顰めるも、反撃にでた。
ザイルの斧がの肩を掠る。服が破け、鮮血が流れる。


「ベホイミ!」


は肩を抑え、止血しながらベホイミを唱える。傷は見る見るうちに回復して
傷口は完全に封鎖された。がベホイミの最中に攻撃を仕掛ける。
のブーメランが弧を描き、持ち主のもとへ戻ってくる。


「ちょと!ザイルに掠りもしてないわよ!!このへたくそ!!」
「慣れないんだよ」


がザイルに渾身の力を振り絞ってザイルを殴る。ザイルが怯んだ隙に
がブーメランで何度も殴った。使用用途を激しく間違えている。
チロルは背後に回り、マントの裾を噛んでぶんぶんザイルを振り回した。
ザイルを離すと、スライムが頭突きを食らわし最後に、ベラの渾身の一撃でザイルは降参した。
ふぅ、と汗を拭いザイルに手を差し伸べる。ザイルは分からないといった感じに戸惑っている。


「立てないでしょ、ほら、手を貸してあげるから立ちなさいよ。」


のさりげない優しさに、ザイルは不覚にも顔が赤くなった。
手をとり、が引っ張りあげると、ベラが話しかける。


「ねえザイル、ドワーフのおじさんを追い出したのはポワン様じゃないのよ?」
「え?じっちゃんを追い出したのはポワン様じゃない?でも雪の女王様が・・・」


ザイルが困惑したように告げた次の瞬間、鋭い冷気が辺りに広がる。
皆は何がきてもいいように構える。吐く息は白く、寒さに身も震える。
ザイルの後ろに何かが見える。多分、ザイルのいっていた雪の女王だろう。


「あんたね、ザイルに嘘をつき、利用したのは!許さないわ!!」
「何故・・・何故春がいいの!」


雪の女王の悲痛の叫びとも取れる声と共に、戦闘が始まった。
まず、とベラが先の戦いで傷ついた仲間たちを順に回復していく。
その間に特攻部隊の、チロル、スライムは雪の女王に攻撃を仕掛けていく。
回復の終了したは雪の女王に攻撃をするも、防御力が高くあまりきいていないようだった。
そこではルカニを唱える。のレベル、年齢でルカニを覚えているのは大したものだ。


「これで防御力を下げたわ!思う存分戦っちゃいなさい!」


と、士気をあげるように叫ぶと、雪の女王の攻撃が始まった。
雪の女王は冷たい息で、全体の体力を削る。各自ホイミで回復する。
モンスターたちは回復ができないため、ベラが慌ててホイミを施した。


「スクルト!」


次は味方の防御力をあげるためにスクルトを唱えた。
矢張り、には魔法を使うセンスがあるのかもしれない。




「それっ!」


が最後に、ブーメランで叩き、雪の女王を倒した。
歓声を上げて互いに喜びを分かち合っていると、雪の女王が震えながら口を開く。


「皆・・・春を求めているのね、何故?何故・・・冬じゃ駄目なの?」
「暖かいからだよ、心地良いからだよ、冬は冷たいだろう?」
「―――沢山の人が温もりを求めているのね・・・だから冬じゃ駄目なのね」


雪の女王は酷く落魄れた様子で呟く。
そこでが、それは違うと首を振り、口を開く。


「いいえ、冬が駄目って言うわけじゃないわ。ずっと春でもいけないと思うの。
 だから冬があって、季節は変わっていくのよ。だから、落ち込まないで?」


最期に冬の女王は笑った気がした。
こうしてたちは春風のフルートを手に入れ、氷の館を後にした。
ザイルはいつの間にか消えていた。








妖精の村に無事戻り、ポワンに春風のフルートを渡す。
道行く人は、の持っている春風のフルートを見て、囁きあうように寄り添い
満面の笑みになっていた。はこういうのは英雄っぽくて好きらしく、誇らしげな笑みを浮かべていた。


「ありがとうございます、今迄あなた達の事を見ていました。これで春が着ます・・・。」


ポワンは春風のフルートを愛しそうに眺めながら頭を下げる。
春風のフルートに唇を当て、優しいメロディーを奏でる。
みるみるうちに桜色に染まっていく妖精の村を、嬉しそうに眺める二人。
―――――無事に春が来ました。



「もしも貴方達が大人になって、困った事があったら力になりましょう」
「はい、では失礼しました。」


は小さく頭を下げてその場を後にした。





。」


見送りに着てくれたベラが呼び止める。桜散る中、それぞれの道へと歩みだす時。
ベラが両手で抱えているのは、枝のようなものだった。


「この枝・・・今は寒くて枯れかかってるけど、世界に春が告げられれば直ぐに元気になるはずよ。」


言いながらに桜の一枝を渡す。
ニコッとが笑顔になり、桜の一枝を貰うともつられたように口許を吊り上げた。


「じゃあね、・・・」


手を振り、二人の旅立ちを見送るベラ。
二人は最後に一度振り返り、帰っていった。















〔アトガキ〕
妖精の国編完結です。
思えば、の性格が変わっているような気がします。(おい
実際の所、ザイルや雪の女王との会話のやり取りは全く覚えてなく、かなり苦戦。
でも頑張りましたよ。きっとオリジナル要素満点だろうケドね!
次からはラインハット。ヘンリー王子の登場です!さあ、本腰入れよう。(今迄は!?
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます><これからも〔そして僕らは〕
をよろしくおねがいしますねv   2005.8.16 神楽亜瑠