それは崩れ行く未来、微かな希望







「ココで大人しくしてろ」


男はそういい捨てると、その場を後にした。
何処にいるのかは分からないが、とりあえずココは古い牢屋って事が分かる。
じめじめしていて、なんだか気分が悪い。
牢屋の前には数メートルの地面があり、その更に向こうには水が広がっている。


「なんなのあの男!ちきしょう!」


格子に手をかけ、今はいない男に悪態をつく。カシャン――――と虚しく鳴り響く。
ヘンリーは複雑な顔をして壁に背を預けて座っている。
が諦めてヘンリーの横に座ると、はぁ〜と大きなため息をついた。


「・・・
「ん?」
「多分ヤツらは次の王を、弟に継承させようとしているものどもだ。どうせ弟が王位を継ぐんだろうが。」
「なんでヘンリーじゃ駄目なの?あたし、別にヘンリーでもいいと思うけど。」


いつもの様子とは裏腹に、触れれば壊れてしまいそうな陶器を思わせる表情をしているヘンリーに
は思ったことを素直に告げる。確かに悪戯好きで、生意気な王子様だけど、いざとなったら
やってくれる人だと信じているからだ。は俯いて、投げ出した足をじっとみつめる。


「あたしは・・・ヘーボンな家の生まれだから、よくわかんないんだけどさ」
「大人の都合に子供が巻き込まれるなんて、ホントにやだよね。最悪よ!」


ニッ、と笑いかけると、ヘンリーも少し元気を出したみたいで、「ああ」と頷いた。
はゴロンと横になると、天井を見上げて何度か瞬きをする。


「これ、何の足しにもならないだろうけど羽織ってろ」


相変わらず命令口調であるが、ぶっきらぼうに差し出した。
多少寒いので、それを気遣ってだろう。ヘンリーの優しさに、は目をまんまるに開けた。
「ありがと」と、言いマントを足にかける。隣のヘンリーにもかけてやると、ヘンリーはの顔を
見て、ちいさく「ありがとう」と呟いた。顔が赤かったのは、気のせいではなかったろう。




、俺最初はの顔に惚れて俺の女になれっていってたけど」


ヘンリーがなにやら語りだしたので、耳を傾ける。ヘンリーの顔は不敵に笑んでいる。


「俺、の性格も好きだ。」
「まあまあ、ラインハットの王子様は随分とキザなこというのね」


クスクス笑うと、ヘンリーは顔を赤くして「ふん!」と鼻息を鳴らした。
出会い頭に言われたら多分、殴ってただろうが、今ヘンリーは別だ。


「ヘンリーって、案外優しいのね。」
「お、なら俺の嫁になるということか!?」
「どうしてそう話がぶっ飛ぶのよ!前言撤回ーヘンリーって最悪よね」
「うっ、す、すまん・・・」
「すみませんでしょ」
「す、すみません!」


ヘンリーが変に高いプライドを捨てて、に必至に謝る。
そんなヘンリーに、思わず噴出すと、ヘンリーは恥ずかしそうに「なんだよ・・・」と呟いた。






「ヘンリー王子!それに!」


どれくらい時が経ったか、静かなこの場所で時が経つのを忘れるくらい
夢中になっていたずっと話していた。格子に手をかけて、パパスが嬉しそうに顔を綻ばせ
扉を開けようとするが、鍵がかかっていることに気づき、ぬおおおおおおお!と雄叫びを
あげながら、扉をあっさりとあけてしまう。それには、もヘンリーも唖然。


「ふん!ずいぶん助けに来るのが早かったじゃないか」
「そうね、何分くらいで来たの?」
「いや、数時間はかかったと思うけど・・・」
「「えっ!?遅い!!」」


素でそういっていたらしい。ヘンリーとは声を揃えてを罵った。
はマントをヘンリーに返し、立ち上がる。ヘンリーも立ち上がり、マントを着用した。


「ま、いいや。どうせ俺はお城に戻るつもりはないしな。王位は弟が継ぐ。俺はいないほうがいいんだ。」


自嘲気味に呟いたヘンリーは、どこか遠くを見つめていた。
その言葉に、パパスはヘンリーを殴った。その行為には、は勿論、ヘンリーも驚いていた。


「な、殴ったな!?俺を・・・!」
「王子!あなたは父上の気持ちを考えたことがあるのか!?父上は・・・父上は・・・」


そこまで呟いて、パパスはぐっと言葉を呑む。そして「さあ、追っ手のこないうちにココを出ましょう。」
と言い牢屋から二人を連れ出した。だが、既に追っ手が来ていて、殺気の漲った目で一同を見ている。
パパスは、ココは引き受けた。と言い、追っての足止めを引き受けた。
入り口までの道のりはしか知らないため、が先頭を切って進む。
何事もなくラインハットへ帰る。――――筈だった。






「ほほほ!ここから逃げだそうとはいけない子供たちですね。この私がおしおきをしてあげましょう。
 さあいらっしゃい!!我が名はゲマ!!ほほほほほほほ!」


古代の洞窟の入り口にやっとついた一同、だがそこに待ち構えていたのはモンスターだった。
突然の展開についていけない三人(+二匹)は、ゲマの攻撃をまともにくらってしまった。
しかも、ゲマの攻撃力は並大抵のものではなかった。攻撃を受けた三人(+二匹)は
立ち上がる力がすぐに沸いてこなかった。


「うっ・・・、大丈夫か?」


とても微かな声だが、ヘンリーがを気遣う声が聞こえた。―――が、ヘンリーは声をかけて
直ぐに気絶してしまった。も、後を追うように意識を手放す。
そこへ、追っ手を倒したパパスが加勢しに来た。


「こっ、これはいったい!!!!!ヘンリー王子!!」
「ほほほほほほほほほほ!あなたですね、私の可愛い部下をやっつけてくれたのは。
 ――――いでよジャミ!ゴンズ!その生意気な男をやっつけておしまいなさい!」


ゲマがジャミとゴンズを召喚する。こんなモンスターだったら楽勝のはずだった。だが――――
戦闘開始から少しして、ゲマは大そう嬉しそうにに口許を吊り上げ、パパスに言葉を吐き捨てる。


「ほほほほ!みごとな戦いぶりですね。でもこうするとどうでしょう!」


ゲマはのにとり、不気味な笑みを浮かべる。


「この子供の命がおしくなければぞんぶんに戦いなさい。
 でもこの子供の魂は永遠に地獄を彷徨うことになるでしょう。」


その言葉を聞いた瞬間、パパスは攻撃の手をやめた。
ゲマは本気だ。何故なら、の首に死神のカマを突きつけている。
冷たく、そして鋭く光るカマに、やるせない気持ちは募る。
ゲマはほほほほほほほほほほ!と、また例の笑い声をあげて、戦闘を楽しんでいるようだ。
圧倒的に不利な戦闘を開始してから数分経ち、パパスは力尽きて冷たい地面に倒れた。


「ほほほほほ!ずいぶん楽しませてくれた!」
「うっ・・・!気がついているか!?・・・くっ・・・・お前たちの母さんは
 まだ生きているはず。ワシに変わって母さんを・・・」


いい終える前に、ゲマがパパスを灼熱の炎焼き尽くした。
ゲマは満足げに例の笑い声を上げると、やがて酷く冷たい声でパパスの焼け跡を見つめ呟く。


「子を思う親の気持ちはいつ見てもいいものですね。心配はいりませんよ、この子供たちは
 我が教祖の奴隷として奴隷として一生幸せに暮らすでしょう――――」
「ゲマ様、このキラーパンサーの子供とスライムは?」
「捨てておきなさい。野にかえればやがて魔性を取り戻すはず。」


ゲマがチロルとスライムに一瞥をくれると、の袋に入っているゴールドオーブに目が奪われる。


「この子供は不思議な宝石を持っていますね。この宝石はもしや・・・?
 どちらにしろこうしておくとしましょう。」


ゲマは喉の奥でくつくつと笑うと、ゴールドオーブを木っ端微塵に破壊した。






そして古代遺跡入り口には、チロルとスライム以外、誰もいなくなった。

意識の戻ったチロルが、悲しげに鳴き、やがてスライムを連れて遺跡を後にした。





[第一章完]




















〔アトガキ〕
第一章、というか幼少期完結です。
大好き少年ヘンリー王子でした。今後、とヘンリーはどうなるのでしょうか!
これから、世界の運命はどうなるのでしょーか。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます><これからも〔そして僕らは〕
をよろしくおねがいしますvvv   2005.8.18 神楽亜瑠