奴隷問題児









「こらっ!さっさと岩を運ばんか!」


鞭を持った監視が、その鞭を地面に打ちつけ奴隷に仕事をするように指示する。
だがその奴隷はそこからジッと動かず、じーっと監視の事を見ている。
道行く奴隷達の目に生気は無く、ただただ岩を運んでいる。

言わずとも、珍しい奴隷だ。

監視はとうとう痺れが切れたらしく、鞭をその奴隷に打ちつけると、奴隷はその、
黒曜石のような瞳で一睨みすると、岩を足で蹴って逃走した。
監視は呆然と奴隷の後姿を見ているだけだった。




一方、別の場所では、漆黒の髪に、烈火の様な輝きを見せる瞳の女の奴隷が
毛を逆立てて威嚇している猫のように、監視を睨んでいる。

彼女もまた、珍しい奴隷だ。

監視は、思わず持っている鞭で彼女の体をバチンッ!と叩くと、顔を真っ青にして
後悔をする。――――何してんだ俺!
女の奴隷は俯きワナワナと震えると、キッと睨み、バチーンッ!と威勢の言い音を立てて
監視の頬を引っ叩いた。しかも、彼女の力は並じゃなかったらしく、図体だけはでかい
監視の身体は、いとも簡単に吹っ飛んだ。


「あんたねぇ!あたしのこと鞭で叩くなんて100万光年早いわい!!」


彼女はそういうと踵を返し去っていった。監視は呆然と彼女の後姿を見ているだけだった。


二人の奴隷の名前は――――――そして―――――
彼らは、古代遺跡でゲマに連れ去られた子供たちだった。奴隷になり、心も身体も逞しく
成長し、監視に反抗的な態度ばかりとっていた。そのため、奴隷には希望となっており
奴隷達の間ではちょっとした有名人だった。奴隷になり、もう10年になる。




「も〜、なんなのさ、あたしのこと叩くなんて・・・ちきしょ・・!」


頭の後ろで腕を組み、天を仰ぎながら舌打ちする。
さて、とヘンリーは何処かしら?―――と思いながら階段を上がる。
上がりきると、広がる晴天。外気が気持ちよく、思わず顔がほころぶ。
ひゅぅ・・・と涼しい風が吹き抜けると、の目の前でまだ幼い少年が転んだ。
思わず手を差し伸べ、大丈夫?と尋ねる。どうやら少年は、岩の重さに耐え切れなくなったらしい。


「大丈夫?ヘーキ?」
「うー・・・ちょっと痛い」


膝がすりむけて、痛々しくも赤い傷が残っていた。そこで、ホイミを唱えると、傷口は忽ち癒え
少年は笑顔になり、ありがとう!といって作業に戻った。

――――彼の笑顔が無くなる日はいつになるのだろうか?

少年の後姿を見つめて、そんなことを思う。
彼女は何人も見てきたのだ、奴隷生活を続けるにつれ、心をなくし、感情をなくしていく人たちを。

は向き直ると、目の前には不機嫌オーラが漂っている緑の髪のおかっぱがいた。


・・・そうやってまた男の心を奪っていくんだな・・・」
「何いってんのよ、変なこというな!」


ヘンリーは「どうだか」と言ってそっぽを向く。彼の子供染みた嫉妬にはため息だ。

因みにこの二人の関係は友達。
だが、ヘンリーの気持ちは10年前から変わっていない、寧ろ現在進行形で、益々
好きになっている。の気持ちにも変化は無く、よい友達としか思っていない。

ヘンリーの性格は10年前と比べ、素直に、陽気になっていた。
皮肉にも、パパスの死と、奴隷生活が彼の曲がり捻った性格を変えたようだ。


「あ、何サボってんの」
「「お前もな」」
「俺は、休憩だ。」


奴隷が休憩してもいいのか。なんてつっこみはおいておいて、ヘンリーとは呆れた顔で
を見る。の顔は10年前と変わらず無表情で、感情が読み取りにくい。


「それにしても、いい加減こんなところ抜け出したいわ・・・」


ふぅ、と憂鬱気にため息をつき、天を仰ぐ。ヘンリーも「だなぁ。」と呟き地面を見る。
は座り込み、10年前と変わらないため息をつく。


「と、いうか、の場合は追い出されそう。」
「黙れ」


座り込んでいるの頭に足を乗っけてぐりぐりする。
ヘンリーが「!パンツが見えちゃうよ!奴には勿体なさ過ぎる!」とか悲痛に叫んでいるが
無視だ。10年前と比べ逞しくなったも、矢張りには敵わない。


「いつか流されるかも・・・は殺そうとしても殺せない。」
「うっさいぞそこ!まあ、島流しにあっても別に構わないけどね。そしたら、あたし母さんを探す。」


真剣な顔をして空を見上げる。それにつられてもヘンリーの真剣な顔になる。
―――――彼らの希望、それはの母親の生存だった。
パパスの最期の言葉を、はうっすらと聞いており、そしてパパスが死んだのも知っている。


「チロルにスライム元気かしら・・・。もう、何年も会ってない。野性に戻っちゃってるだろうな・・・」


あーあ。と残念そうに呟き、頭の後ろで手を組む。
空はすっかり夕暮れで、「今日は休め」という声が聞こえたので、おとなしく寝泊りしている場所へ赴いた。






たちは今日一日の労働が終わり、満足の行かない食事をとると
眠りについた。明日もまた、何も変わらない奴隷生活が始まるはずだった。
―――――だが



を発見したぞ――――・・・」
「よし、誰にも気づかれないように運び出せ、外で殺そう。」


囁きあいながら、のもとへ忍び足で近寄る数人の影。それらは紛れもなく監視で殺気を放っていた。
そんな殺気にが気づかないわけがなく、黙って寝たふりをする。
―――外で殺そうですって?あたしが殺してやるわ、ボケ。

やがて誰かがのことを担ぎ上げ、足早にその場を去る。




外に出て間も無く、の体が横たわる。


「よーし。これで問題児がいなくなる・・・」
「いなくなるのはあんたたちよ。バーカ」
「「「「!?」」」」


は飛び上がるように立ち上がると、次々に監視たちをなぎ倒していった。
武闘家やっててよかった・・・。と心底思う。
やがて最後の一人になった。


「くそー!」


最期の監視が、捨て身の攻撃に出た。はそれをあっさりかわすと、回し蹴りを喰らわせた。
そして、鋭い視線を監視に向ける。


「これに懲りたら二度とあたしを殺そうなんて考えないことね。痛い目見るだけよ。」


決まった!とか心の中でガッツポーズと取っていると、突然後ろから腕を掴まれる。


、貴様は樽に入って何処かへ行け!」
「なんでよ!?」
「殺そうとしても殺せないのならば、いっそ消えてくれ!」


監視は牢屋の方へ向かった。は、抵抗しようと思えば抵抗できるのだが
敢えて抵抗はしなかった。何故なら、外の世界へいけるから。
牢屋の奥にある樽にを入れる。普段は死体を流すためによういられるものなのだが。
そして、監視はの装飾品の入った袋を樽の中に投げ込む。


「なんで?」
「貴様の装飾品を見ていると、貴様の悪行を思い出して眠れぬ日々が続くからだ!」


ああー。とはやけに納得した気分になった。そういえば、監視たちに酷い目に合わせてたっけ。
袋の中身を空けると、死んだと思っていた母の遺品の羽根帽子と、小さい頃着ていた服
そして装備などがあった。監視は樽の蓋を閉めると樽を流し始める。


「ばいばいヘンリー・・・どっかで会おう。」


羽根帽子を被り、ぎゅっと目を閉じる。












「「が殺された!?」」


監視が朝きたと思ったら、”は殺した”とはき捨てた。
ヘンリーとは信じられない、といった顔をしている。
やがて、ヘンリーは震えながら俯いた。そして、壁に拳を何度も何度もぶつけた。
滅多に感情を表に出さないも、今日はとても怒りに満ちた顔をしていた。















〔アトガキ〕
そんなこんなで一話で奴隷編終了です(汗
は殺されたということになっています。逃がしたというと、
何かと反乱などがおきそうですしね・・・?(疑問形?疑問形なのか?
次は修道院編となります。修道院ではあの子と友達に・・・ふふふふ。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます><これからも〔そして僕らは〕
をよろしくおねがいしますねv   2005.8.23 神楽亜瑠