お別れ、再会、感情








修道院に住まわせてもらうようになってから何日か経った。
フローラとは年が一緒だからか、すぐに仲良くなり、お互い冗談を言い合う仲にもなった。
――――親友といっても過言ではないだろう。
院長には、シスターに似合うような行動、言葉遣いを心がけてください。といわれており
はがんばっているつもりなのだが、どうも時々地が出てしまう。


「おーつめたっ!いいわねぇ海は・・・あ、じゃなくて・・・まあ、海は冷たいですね。でした」
「よくできました、そうですそうです!」


海で足を冷やそうと、砂浜までやってきたのだが、感動のあまりついつい地が出てしまった。
フローラは言い直したことに酷く感心したように惜しみなく拍手を送っている。
「いやいや〜」と、が照れたように頭を撫でると、フローラがクスクスと笑った。
海は何処までも広がっていて、太陽の光に反射して眩い。思わず目を細める。


「二人っきりの時は地でいいですわよ。」
「そっか、ならいいや!ひゃー!水が気持ちいい!水着きて泳ぎたいな〜」
「そうですわね〜太陽も輝いていて、いいお天気ですわ。」


渚をフローラと他愛ない話をしながら歩いていると、ふとのことを思い出した。
そういえば、フローラはとも面識があったはずだ。


「フローラ、あたしの双子の兄ちゃん覚えてる?」
「あぁ!あの、根暗そうな・・・さんですわよね?覚えてますわ、なんだか、とても印象的で・・・」


ぶっ、と思わず噴出す。根暗そう・・・確かにそうね。と妙に納得した。


「そういえば、船でフローラと話したとき、いってたわよね?わたくしも旅にでてみたいですわって。
 あれって、既に旅に出てるわよね?」
「そうなんですよ!わたくしもたちが降りてから気づいたんです。船旅も旅だって」


二人は笑い合うと、修道院に戻っていった。












とフローラは、フローラの言葉添えがあり、同室で、一緒のベッドに寝ていた。
フローラはゴロリと寝返りを打ち、の方を向く。はくぐもった声で「ん〜?」と返事をした。
フローラは一瞬悲しさに顔を翳らせ、そして話し出した。


「わたくし・・・ずっと黙ってましたが、明日には帰るしかないんですの」
「はぁ!?何!?何で!?」


就寝時間を過ぎているのに、お構い無しに大声で叫ぶはやっぱり大物だ。
はガバッと上体を起こすと、信じられない・・・。といったよな表情でフローラを見る。
フローラも上体を起こし、と向き合う。


「花嫁修業にきているといいましたよね、今日院長にもう花嫁として恥ずかしくないと
 言われたんですの。だから、明日にはサラボナに帰るしか・・・。」
「そう・・・なのね。あたしもいつまでも子供じゃないわ、ちゃんと見送る。」


寂しそうに笑み、フローラを抱きしめる。つやつやしているフローラの空色の髪の毛。
やわらかい春の日差しのような体温。もう、明日からはこの部屋一人なんだ・・・。


「フローラ、今日はずっと抱きついてていい?」
「ええ、わたくしもにずっと抱きついていますっ!」


互いに抱き合いながら上体を倒す二人。別れとはいつでも悲しいもの。











「それでは、お世話になりましたわ。」


翌朝、早朝に教会に集められたシスター達。朝は低血圧なも、今日は目覚めはよく
誰よりも真剣な顔をしていた。皆口々に「おめでとうございます」とお祝いの言葉を述べる中
はじっと黙り込んでいた。
最後、花束を持ったフローラがバージンロードを歩いて扉まで歩いている最中、
が立ちはだかるようにフローラの目の前に立った。


「フローラ・・・」
・・・」
「絶対、絶対また会えるわよね?」


目に涙をためながら、フローラに問う


「も、ちろんですわ・・・っ」


フローラは涙を流しながらに抱きつく。も抱き返し、互いに存在を確かめ合うように
抱き合うと、どちらともなく離れ、はバージンロードから退く。
フローラは最後に一回振り返ると、扉を開け、故郷へと旅立っていった。


「ばいばい・・・・」


小さく呟くと、その場から逃げるように海へと駆け出した。










暫くボーッと海を眺めていると、一つの見覚えのある樽が海に浮いている。
その樽は此方に向かっていて、矢張りそれをボーッと眺めていると、ハッと我にかえる。


「・・・・・!?」


あの樽・・・・


「あたしが入ってたヤツと同じじゃん!!」


と、なると死体か・・・それとも・・・
微かな希望にかけ、もうじき樽が流れ着くであろう場所へ駆け出した。
か、ヘンリー。どちらかがいれば・・・

樽を無理矢理こじ開け、中を見ると、そこにいたのは二人の男と一人の女。
緑の髪の男は、女に寄り添うようにいて、手まで握っている。
もう一人の男は、二人とは少しはなれたところにいる。本当に少しだが。


にヘンリー!?でもこの子は・・・誰?」


ヘンリーが彼女の手をしっかり握っているのが、何故だか気に喰わなかった。
こんな感情は初めて抱くものだった。とにかく、早く修道院に運ばなくては。

樽を修道院まで運ぶのに、時間はかからなかった。火事場の馬鹿力というか。なんというか。
入り口まで樽を運ぶと、院長の所まで猛ダッシュ。


「院長!!!た、樽から兄と友達と見知らぬ人が!!!!」


シスターっぽさなんて、もうどうでもいいわ!!
の必死の形相に、院長や、他のシスターも樽の元へ集まった。