話があるんです!








―――樽の中から人が出てきたときは吃驚した、でもそれ以上にホッとした。
あたしがいなくなってからも元気で、更に運良く彼らも外に出れたのだから――――

ザザーン・・・と、音を立てて迫り来るも、儚く砕けてゆく波に、視線をゆっくりとやる。
太陽光に反射して眩しい海は、いつか、船の上から見た海原と同じ色をしていた。
ふぁあ〜・・・と欠伸をお構い無しにすると、かつてフローラと一緒にいた部屋を後にする。

は、未だに目覚めないヘンリーとの元へ赴く。
階段を上ると既に目覚めたらしい、ヘンリーが手を握っていた女性が
を見るなり慌てて駆け寄ってくる。


「あのっ、ココ何処なんでしょうか・・・?」
「ココは名も無き修道院って言う名の修道院。」


早速真顔で嘘をつく。フローラが隣にいたら笑顔でほっぺを捻っていたでしょう。
女性はそうなのですか〜。と納得したように頷き、尚も質問をする。


「この服は・・・それに、私たちはどうなっていたのでしょうか?」
「えーと・・・樽の中に入って、ぐったりしてましたね。貴女は・・・ヘンリーと手を繋いでいたようです。」


にっこりと笑顔のまま言うが、心の中じゃ何か今迄感じたことの無い感情で一杯になった。
その感情が――――”嫉妬”というものだというのに気づくのは、まだまだかかりそうだ。


「そうなのですか!ヘンリーさんは、私の手を握って励ましてくれたのです。
 ―――絶対大丈夫、と。ところで、あの、様ですか?」
「え、あーです。の双子の妹で、ヘンリーの友達です。」


突然、名を言い当てられて吃驚するが、とりあえず名乗る。
すると女性は、まぁ!と口許を押さえて驚いた。


様って・・・!失礼ですが、あの、奴隷の希望、といわれているあの様でしょうか?」
「ど、奴隷の希望?嬉しくないわね・・・確かに、奴隷を少々嗜みましたが。」
「申し遅れました、私マリアと申します。私もあそこで奴隷をやっていたのですよ?
 そこで、兄の計らいで私とさんとヘンリーさんは逃げることが出来たのです・・・。」


俯き、祈るように組んだ指を胸元へ添える。そんな彼女はまるで聖母マリア。
―――大変だったのね・・・
自身も奴隷だったが、彼女は苦労という苦労を味わっていない。反抗に反抗を重ね、
決して監視の言いなりにはならなかったからだ。
だから、そんな彼女を奴隷の希望とでも言うようになったのだろう。


「詳しいことは、院長に言ってくれれば助かります。そこの、如何にもエラそーなのが院長だよ」


おどけて笑うと、マリアもくすっと笑いながらはい。と答えた。
は元の目的である、たちの部屋へと急いだ。


「まだ眠ってるのね・・・」


大体予想はついたが、実際に目の当たりにすると、呆れ半分悲しみも溢れてくる。
シスター達の手によって着替えさせられたは、
このままもし目覚めなかったら・・・などと思うと、殴りたくなってくる。


「早く起きてよね・・・・。」


最後に小さく呟くと、部屋を後にした。朝院長に呼ばれていたことを思い出したのだ。
小走りに院長の元へ急ぐと、マリアが院長にグラスに入った赤い、ルビー色の水を
マリアに振りかけていた。そういえば―――あたしもそんなことしたっけ・・・。
適当にたっていると、後ろから声がかけられた。


!おい、じゃないか!!」
「ヘンリー!?気づいたの!?」


感動の余り抱きつこうとするヘンリーを軽くあしらい、は笑顔で尋ねた。


・・・死んだのかと思った。ていうか監視たちに、は死んだって言われたんだよね」
「はぁ!?あいつら嘘つきやがって・・・もっとボコボコにしてやればよかった。」


これまでの経緯を伝えると、ヘンリーは「ふぅ〜ん」と何度も頷いた。


「でも、生きてて良かった――――」
「あたし、あんたたちが目覚めないことに心配したんだけど。」
「ごめんごめんっ、それよりのシスター姿・・・見ものだよなァ。写真に撮りたいぜ!」


手でカメラを作り、にっと笑うヘンリーに、苦笑する。
式は終わり、マリアがたちに気づくと、いち早くかけてきた。


「ヘンリーさん!無事だったのですね?」
「はい、マリアさんも無事で何より・・・」
「いえ、ヘンリーさんが手を握ってくれたからです。」


マリアは微笑み、ありがとうございます。とお辞儀すると、ヘンリーはつられて笑顔のままいやいや。
と、お辞儀をした。残る起きないおばかはだけとなった。
やがてマリアが他のシスターに挨拶をしに立ち去ると、ヘンリーが呟く。


「マリアさんって、奴隷の時は気づかなかったけど綺麗な人だよなー。ココでずっと暮らす
 なんて勿体ないよ。」


とマリアを見ながら頷いた。――――ヘンリーは浮気者・・・と心の中でメモしておくと
後ろから声がかかった。今度も男の声。


「ヘンリー浮気疑惑・・・」
「うわっ!?!?気づいたのか?」
!あんた生きてたのね?!」
?・・・ヘンリー、俺には幽霊が見えるのだけど」


目を擦りをじーっと見ているは微笑みを称え、の頬をつねる。


「夢でもないし、あたしは本物よ!」


が涙目でいてて・・・と言っているのにもお構いなしで、はつねる強さを強めた。
「ふぁい・・・ふぁかりまひふぁ・・・」とが言うまでつねるのをやめなかったという。


「あ、そだ。夜に話があるんだけどいい?」
「夜〜?今いいなさいよ」
「無理、じゃあ、夜にな!」


その夜、ヘンリーに話されることで、の人生が変わるだった。