お酒と愛しい人









「「「モンスターじいさん?」」」

酒場の主人と他愛ない話を交えていた時、唐突に主人が話を切り出した。
声を揃えて問い返した三人に苦笑しながら、主人が話し始めた。

「ああ、このオラクルベリーにはモンスターじいさんっていう人がいるんだ。
 一度会ってみたらどうだ?あんたらみたいにちょっとかわった人だぜ」

カクテルに入った氷を、コップの中で躍らせて主人が面白そうに言う。
それにはぷちギレして、眉を寄せて反論する。

「何よ、ちょっと変わった人って。どうみても一般人よ」
「いやいや、シスターが普通旅に出るか?」

ははっ、と主人が声をあげて笑うと、は自分の服を見て「そういえば・・・」と呟いた。
すかさずヘンリーが、「可愛いから良いよ」とニヤニヤ言う。

「というかシスターが羽根帽子を被っているのがまず、かわってる。」
「羽根帽子とあたしは、二つで一つなの。シスターの服はわけあって・・・・その・・・」

が口篭ると、手元にあったウイスキーをグビッと飲み干した。
ヘンリーがあーあ。と呆れたように呟き、と言葉を交えた。

「モンスターじいさんだと。あってみるか?」
「うん。じゃあ明日会いに行こうか」

「じゃあ、もう寝ます。」と主人に一言告げ、ヘンリーとが席から立ち上がるが
は立ち上がろうとしなかった。ヘンリーが?と揺さぶるも、何も反応はなかった。

「まさか・・・」
「寝てる」

ヘンリーが顔を覗きこむと、そこには顔を真っ赤にして幸せそうに寝ているがいた。
オプションで涎つき。ヘンリーは嬉しそうにやれやれ。というと、を抱きかかえた。
俗に言うお姫様抱っこで。ダテに、奴隷で力つけてません。


「ヘンリー・・・そんなことして、恥ずかしくないの?」
「ああ!もちろん!」

街中で、が尋ねると、ヘンリーは誇らしげな笑みを浮かべて頷いた。
それなら・・・・とが呟き、深刻な顔つきになる。

「そっか。じゃあさ、俺、間隔あけて歩くわ」
「なんで!?」









「なー・・・・」

本当に10M後ろを歩いているに、首だけ後ろを向けて問いかける。
は俯いていた顔を上げ、表情で何?と伝えてきた。

はさー結婚とかしないの?」
「・・・俺は、生まれる前から女難の相があるから。」

何処か遠くを見つめ、重いため息をついてそんな言葉を吐き出した。
ヘンリーはきょとんと首を傾げるが、ふと思い出す。の人生、
のお陰ですごいことになってるだということを。

「でも・・・俺にがいるように、お前にも誰かいると俺は思うぜ」
「?俺にって、キミら婚約でもしたの?」

いつの間に自分の隣を歩いているにビックリしながらも、ヘンリーはマズった・・・と心の中で
涙した。には、婚約したことをまだいっていなかったのだった。

「そ、んなわけないだろ!はっはははははは!はおもしろいなあ!!!」
「・・・別に面白くないけど、明らかに怪しいよ。君。」

いつの間にか近くにいたの熱視線・・・ではなく訝しげに見つめるの視線に負け、
ヘンリーは思わず視線をそらした。だが、それが悪かった。は先ほどよりも更に怪しんでいる。

「君、俺の親友だよね」
「お、おうよ!」
「なら、隠し事って言うのは駄目なんじゃない?」

ニヤリ、滅多に笑みを見せる。ああ、が笑うときって、絶対いいことおこらないんだよな。
過去を振り返り、ヘンリーが密かに涙した。

「あー、いや。実はさ・・・」
「うん」
「俺、のこと好きなんだよね」
「・・・はぁ?そんなことは誰でも知ってる秘密だろう?」

どうやらうまくいったらしい、ヘンリーは気づかれないようにそっとため息をついた。
この無愛想なの兄は、と似て騙されやすい。

「まあまあ!さっ、宿いくぞ!」
「――――なんとなく腑に落ちないけど、まあいいや。」

は足早に宿に向かった。その後ろをヘンリーがゆっくりとした足取りでついていく。
自分の腕の中で身じろぐを見落とし、ふっと微笑を浮かべた。